第4章 夢の中に生きる者
部屋の中はまだ薄暗く物音一つせず、ただ鳥の鳴き声か微かに聞こえるだけだった。
久しぶりに泣いたからなのか、頭は妙にすっきりとしていた。
きっと、夢の中でだけでも会えたからなのだろう。
寝巻の上から羽織を着て井戸で顔を洗った後にお勝手口へと向かう。
まだ起きている者はおらず、この静けさが心地良かった。
そのままいつもの裏庭にある縁側に腰を下ろし薄暗い空を見つめる。
(会いたい…)
そんな願いが叶う筈もないのに、そう願ってしまえば再び涙腺が緩むのを感じる。
***
半刻ほど経った頃だろうか、昨日から屋敷に滞在していたミトさんに背後から声を掛けられる。
まだ早いと言うのに綺麗に着替えており、寝間着姿の自分とは大違いだった。
「こんな朝早くに会うとは珍しいですね。…泣いていた様ですが何かあったのですか?」
そう言いながら心配そうに優しく頬を撫でてくれる様子に彼の姿が重なる。
ミトさんは彼によく似ている。
強く優しく、全てを包んでくれる様な暖かさを持っている。
もう絶対に泣かないと決めていたのに溢れ出した涙は止められず、いつしか抱き締められたまま泣いていた。
子供みたいに気持ちの赴くままに泣いたのは彼が死んだ時だけ。
辛くて死にたくて、何もかも闇の中に沈んでしまう様な気分だった。
それから自分の拙い話をゆっくりと聞いてくれた。
自分の生い立ちや彼の事、この眼に宿る力、そして自分の女としての人生を話した。
「…辛かったのですね。それでも貴女は女性の身でありながらも今までこんなにも気丈に生きて来た。それは貴女自身の強さです。貴女は決して弱い女性ではありません。
勿論、自分自身の弱さを知る事はとても大切で難しい事です。その弱さを知っているからこそ、強くあろうとする気持ちが生まれ、こんな風に想って泣く事が出来るのです。涙を流す事は決して恥じる事ではありません。時にはこんな風に胸の内にある想いを吐き出してしまう方が一人で隠してしまうよりもずっといいわ」
こんな風に誰かの目の前で泣いたのはマダラ以外で初めてだった。
ずっと背中を撫でてくれている手がとても暖かく落ち着く。
自分が落ち着いた頃を見計らい、わざわざ暖かいお茶まで用意してくれた心遣いには感謝しきれない思いがあった。