第1章 出会うはずのなかった二人
「女…?」
面の奥には自分と同じぐらいか、それよりも少し下であろう年齢の若い女の姿があった。
物心付く頃から今まで数多くのうちは一族の者達と戦って来たが、まさか女の忍が居るとは夢にも思っていなかった。
年端もいかない子供ですら戦場に駆り出されるこの時代。
「男は戦い女は子を生み守り育てる」という考えは千手もうちはもたいして変わらなかった。
だから余計に驚いた。
顔を隠し男に混ざり戦い、そしてあれ程の能力を持っていたという事に。
その後すぐに背後に感じ慣れた気配を感じ振り向けば兄者の姿があった。
「こっちも終わりそうだな。…ん?なっ…!お、女…!?」
自分の真横に立ち、視線を移した先にある敵の姿に素っ頓狂な声を上げ、身体全体でその驚きを表しているかの様だった。
うるさいと言ってもまるで聞く耳を持っていないのか、一向に落ち着く気配はなかった。
だが、女だろうと一度戦場に立てば性別などは関係ない。
忍として戦うのであればそれを通すのが筋。
この女もそれを分かっているからこそこの場に居るのだろう。
ならば、敵としてそれに答えるのが礼儀。
刀を振り上げれば抵抗せずゆっくりと瞳を閉じる女の姿に感嘆する。
「…どういうつもりだ」
振り下ろした自身の刀に巻きつく様にしてその動きを止める兄者の木遁忍術。
自分を止めたのもどうせ「敵だとしても相手は女だから」と言う下らない理由だろう。
自身が一度殺さないと決めた相手は絶対に殺さない。
こういう事に関しては昔から変わらず頑固なままだ。
それが兄者の長所であり短所でもあった。
そして、その甘さが自身の悩みの原因の一つだった。
***
「あの女をどうするつもりだ?」
「そうだのぉ…。とりあえず今は捕虜という形で拘束し、時が来たらうちはとの交渉にでも働いてもらうつもりぞ。うちは一族も女だろうと、あれ程の能力者を手放すのは惜しいだろうからな。そう心配するな!オレもちゃんと考えておるから大丈夫ぞ」
「………」
一体この根拠のない自信はどこから来るのだろうか。
それでも、その言葉を受け入れる自分は兄者の事を絶対的に信頼しているから。
兄者が大丈夫だと言うのであればこれ以上は何も言うまい。