第3章 足下から鳥が立つ
「とにかく、柱間をどうにかしろ!あいつのせいで落ち着いて部屋にも居られない」
確かに日頃の行いや今日の様子を見ていればそう思うのも仕方が無い事だろうし、それ程までに兄者の行動は度が過ぎていると思う部分がある。
止む事のない文句も仕方のない事だが、自分が言って治るものならばとうの昔にそうしている。
何を言っても直らないから困るのだ。
そう自分の思っている事を正直に言えば、心底嫌そうな顔をしたまま大きく息を吐く。
ある程度の事は予想していたのか、半ば諦めたかの様に肩を落とす姿を見て自分の兄の事ながら何とも情けない気分になった。
「…今度、また何かして来た時には殴るなり蹴り飛ばすなりするがいい」
「実の弟にそこまで言われる兄も悲しいものだな」
そう軽く鼻で笑いながら立ち上がり部屋の外へと向かう女の後姿をじっと見つめる。
「名無し」
そう名前を呼べば、こちらへ振り返り視線が合う。
そのまま先程の治療の礼と兄者に対する詫びを簡単に言う。
まさか礼を言われるとは思ってもいなかったのか、まるで豆鉄砲を食らったかの様な顔で固まっている姿に笑いが込み上げる。
そんな様子に気付いたのか「次は無いからな」と言いながら出て行く姿に、相変わらず可愛げがないなと思ったが嫌な気分はしなかった。
ぼんやりとそんな事を考えながらまだ疲労感の残る身体を横たわらせ、瞳を閉じ再び眠りに就く。