第3章 足下から鳥が立つ
[∟another side]
頼まれていた書簡を猿飛・志村両一族へと届け、屋敷に戻った時に客間で待っていたミトに声を掛けられた。
そして今はミトの待ち人である兄者を探している途中だ。
自身の部屋にも庭にも居ないとなれば、考えられる場所は一か所。
あの女の部屋だ。
兄者は事ある毎に茶菓子を持って行ったり、ただの暇潰しに行ったりとよくあの女の所に足を運ぶ。
許嫁を放っておくのもどうかとは思うが、それは兄者の性格上どんなに言っても治らない。
案の定、女の部屋の近くまで行けば兄者の気配を感じられた。
『…いつまでこうしているつもりだ?さっさと離せ』
『そうだなぁ…、名無しがオレに口付けしてくれたら離してもいいぞ?』
『断る』
耳を澄ませば部屋の中から馬鹿げた会話が聞こえ、思わず溜息が漏れる。
普段の戦っている時からは想像出来ない様な姿が頭に浮かぶ。
兄者のそんな姿を簡単に想像出来る自分が情けない。
何故、自分がこんなにも兄者の事で苦労しなければならないのか考えたところで何かが変わる訳でもない。
それが自分の兄「柱間」なのだ。
『ちょ…!!待っ、やめろっ…!…っ』
中から聞こえる声色が少し慌ただしいものへと変わり、流石にこれはまずいなと思い、目の前の襖を思いっきり開ける。
そこには案の定、想像していた様なだらしない顔をした楽しそうな兄者の姿があった。
女の服の隙間から片手を侵入させ、その反応を楽しんでいるかの様だった。
そんな兄者のお遊びに付き合わされる女を気の毒には思うが、こればかりは仕方が無い。
『と、扉間…』
いつも「お前」と呼んでいた女の口から初めて自分の名前が呼ばれた時は、表情には出さなかったが内心かなり驚いた。
兄者に拘束されているその姿にいつもの余裕はなく、それ程まで今の状態が女にとって非常事態だったのだろう。
最近気付いた事だが、焦っている時や驚いた時、何気ない時に気が緩むと素の自分が出るのか、口調が変わる時がある。
それが本来のものなのだろうが普段は殆ど聞く事は無い。
こちらに助けを求める様な視線に気付き瞳が合うが、助けるにもまずは兄者をどうにかしなければ始まらない。