第3章 足下から鳥が立つ
二人分の茶請けの皿と湯呑を片手に持ち、立ち上がると愉快そうに窓の外に視線を移す兄者の姿が目に入る。
その姿は本当に楽しそうで、まるで玩具を与えられた子供の様にも見えた。
年端もいかない子供が年相応に無邪気に遊ぶ事に関しては全く問題はない。
しかし、大の大人しかも一族の長である者がその様な風では些か問題はあるが、今のところは「まだ」何も起こっていない為、どうこうする事は無い。
そのまま自身も部屋を出ようと踵を返せば背後から声を掛けらた。
「おっと、言い忘れるとこだった!扉間よ、押し倒すのであれば、ああいう場所はどうかと思うぞ?女にはもっと優しくしてやらねば」
「…盗み聞きとは悪趣味にも程があるぞ」
「そう怒るな。厠に行く途中でお前達の会話が聞こえただけだ。それにしてもお前が女であれ、うちは一族の者に興味を抱くとはな。驚いたぞ」
兄者の言う通り、自分でも何故うちは一族の者に興味を抱いたのかは分からない。
女である事を隠しながら戦っていたからなのか、それとも、ただ単に敵の一族に対する興味本位から来るものなのかは自分にも分からない。
あの時はただ触れたくて抱きたくて仕方がなかっただけで、互いの利益の為に身体を重ねた。
女は自らの封印を解く為に自分に身体を差し出した。
要するに、女と自分との間には愛情に変わる様なものは存在しない。
「ワシ等は兄者が思っている様なそんな甘い関係じゃない」
そのままそう一言だけ言い残し部屋を後にする。
「くくっ…、やはり似た者同士だな。お互い頑固者だ」
一人部屋に残された部屋で二人の去って行った方向を見つめそう呟くが、誰も居ない部屋にはそれに答える者は当然居ない。
幼い頃から願い続けている大きな夢。
その夢の中にある小さな可能性を秘めた種を見守る事が自分の役目。
これから先、その種がどういった方向に進むのかは分からないが、今はただその行方を見守るだけ。
千手一族とうちは一族。
いつかこの二つの一族が手を取り合い一つになれる様。
その時はこの世界もきっと大きく変わっている事だろう。
そんな思いを馳せ、今は愛しき人の元へと向かう。