第3章 足下から鳥が立つ
「ちょ…!!待っ、やめろっ…!…っ」
身体がまるで電気でも通ったかの様に一瞬跳ねる。
その感覚から逃れたくて腕の中から無理矢理に抜けだそうとしても、やはり力では叶わない。
かと言って生半可な術を使ったとしてもこの男には効果は無い。
あれやこれやと抜け出す方法を考えてはみるものの、良い案はそう簡単には浮かんで来ない。
その間にも、相変わらず楽しそうに唇を這わされる。
逃げられない事を良い事に終いには衣服の中にまで手を侵入させてきた。
流石にこれはまずいと思い大声を出そうとした瞬間―
閉じられていた襖が遠慮無しに開けられ、見知った顔が現れた。
「と、扉間…」
「おぉ、戻ったか!今回は随分と遅かったな。何か問題でもあったか?」
「いや…、問題はない。それよりも兄者、ミトが客間で待っている様だが…。こんな所で油を売っていてもいいのか?ワシは知らんぞ」
こんな状況で普通に会話をしているこの兄弟は頭がおかしいのだろうか。
明らかに嫌がっている自分を見ても助ける様な素振りは見せず、一瞬瞳が合っただけでそのまますぐに逸らされる。
扉間のそんな態度に腹が立つが、何よりも未だ背後から自分を離そうとしないこの男が一番腹立しい。
しかし、扉間との会話で気が緩んだのか、自分を拘束していた腕の力が少し弱まった隙に腕から逃れる事に成功した。
そのまま部屋から逃げ出し、外へ向かって振り向かずに走る。
***
「せっかく捕まえたのに逃げられてしまったぞ…」
「…兄者もさっさと行け。大事な客人をあまり待たせるな」
わざとらしく溜息を吐く自分の兄に頭が痛くなる。
許嫁が居る身にも関わらず、先程みたいに他の女に冗談半分で手を出したりしている。
時々、自分は兄者がどこまでが本気なのかが分からなくなる時がある。
千手一族の頂点に立つ以上は、いくら自身の男女関係の事でも危険な行動は慎んでもらえるのが一番良いのだが、それを言ったところで、
いつもの様に大声で笑い飛ばされて「大丈夫ぞ」と言われるのは目に見えている。
「さて…、大事な客人を待たせている事だし、オレはそろそろ行くか」
「早く行け」