第3章 足下から鳥が立つ
うちはでありながら、千手に身を寄せる自分に対しても皆と同じ様にとても優しく接してくれる。
芯が強く曲がった事を嫌うとても真っすぐな性格をした美しい女性だ。
許嫁というだけあってよくこの屋敷にやって来ており、その際にはとても良くしてもらっている。
彼女と一緒に居るとまるで自分に姉が出来た様なそんなくすぐったい感覚を感じる。
「馬鹿馬鹿しい…。お前の目は節穴か」
「節穴なものか!…あの扉間でさえ手を出す程だ。名無しはもう少し自分の価値を見直してみるといい」
「…!」
あの夜の事を言っているのだと直感的に気付く。
にやりと憎たらしい顔で次の言葉を待っている柱間の顔を殴りたいと思ったのは初めてだった。
しかし、ここで下手な反応でもしたらそれこそこ相手の思うつぼ。
それはそれで癪に障る。
「私は自分の価値になど興味は無い。お前こそこんな所で油を売っていないで仕事に戻ったらどうだ?うっとおしい」
「なに、俺の部下達は有能な者達ばかりでな。問題ないぞ」
うっとおしいと分かり易く言葉に出したにも関わらず、ああ言えばこう言い、いつまで経っても部屋から出て行かない。
苛つく頭をどうにか落ち付けようと目の前に用意されている茶菓子に手を伸ばし無言で口にする。
口に入れた瞬間、ほのかに桜の香りが鼻孔を通り丁度良い甘さが口の中に広がる。
あの日の事を後悔したかと聞かれれば正直分からない。
自分自身の身体と引き換えに片手だけだったが封印術を解く事が出来た。
それは、自分にとって大きな変化だった。
大げさな言い方だが、生きる希望の様にも感じた。
この身体一つで得た物の大きさをを考えれば悪くない取引だった。
一度抱かれてしまえば二度も三度も同じ様なもの。
いつ死ぬかも分からないこの身に執着心はさほどなかった。
「それにしても、千手である扉間をよく受け入れたな」
「うるさい黙れ。私とあの男はお前が考えている様な関係じゃない」
「つれないなぁ。オレはお前の事をもっと知りたいだけなのに」