第2章 交換条件【*】
今の自分は身体ごと引っ張られ、男の腕の中にすっぽりと収まっている状態だ。
向かい合わせで男の胸元に顔を埋めている。
頭を上げ顔を見ても瞳は閉じており起きる気配は無い。
その顔を見ていたら、自分のさっきまでの行動が全部知られている事に気付き恥ずかしくなる。
それでも、今更それがどうにかなる訳でもなく、その事は一度忘れる事にした。
このままの体勢で眠るつもりなのか、自分を抱き締めたまま相変わらず動かない。
それでも、あの人の事を考えていたせいか、今はいつもみたいに突っぱねる気にもなれなかった。
仕方なくその行動を受け入れる事にし、そのまま大人しく気持ちを落ち着かせる。
身体を包み込む暖かい体温が懐かしくて、落ち着く。
今日はいつもと違う事があったから、少し変になっているだけ。
そんな言い訳を考えながら、今は静かに瞳を閉じる。
***
(…寝たか)
いつの間にか軽く背中に腕を回し、額を寄せながら規則正しい寝息を立てる女の顔を覗き見る。
随分と深く眠っているのか、軽く触れても起きる気配は感じなかった。
髪を梳く様に撫でれば、さらさらと艶やかな髪が指の隙間を通る。
さっきもいつもの様に突き放すかと思ったが、やけに素直に従ったなというのが正直な感想だった。
自分に誰かを重ねて見ている事にはすぐに気付いた。
そうでなければ、本来敵である自分に対してあんな態度や顔を向ける筈が無い。
そう思うと妙に納得した気分だった。
女が何を思って自分に抱かれたのかは分からないが、疲れ切った様な様子を見て少し罪悪感を覚える。
そんな罪悪感からか、大人しく寝ている女の姿を見て今日だけは腕ぐらい貸してやろうと思った。
そのまま自分も瞳を閉じ、ゆっくりと眠りに就く。