第2章 交換条件【*】
「…何で私がお前と同じ布団で寝なきゃいけない?」
「一組しかないのだから仕方ないだろう。…黙って寝ろ」
修業と先程の行為での疲れが溜まっており、仕方なく男の言う通り寝る事にした。
そこまで大きくは無い布団の中で、お互い背中合わせで瞳を閉じる。
しかし、寝る体勢に入ったは良いが、身体は疲れている筈なのに頭が妙に冴えていて中々眠気がやって来ない。
その理由はなんとなく分かっている。
(…落ち着かない)
こうやって誰かと近い距離で眠るのは、もう随分となかったから。
警戒心というよりもただ落ち着かなかった。
そのままゆっくりと身体を仰向けにし、薄暗い天井を見つめる。
どれぐらいの時間が経っただろうか。
未だに訪れない眠気に小さく溜息が漏れる。
視線を隣へと向ければ、規則正しい寝息が聞こえて来た。
静かに身体の向きを変え男の背中をじっと見つめる。
その背中を見ていたら無性に触れたくなって仕方が無かった。
あの人とは全然違うのにどうしても思い出してその姿を重ねてしまう。
「…少しだけ」
まるで独り言の様にそう呟き、男の背中に軽く額を寄せる。
こういう時、自分は弱いなとつくづく思う。
いつまで経っても忘れられなくて、ずっと引きずっている。
そんな事を考えながら瞳を閉じれば、少しだけ気持ちが落ち着いた様な気がした。
それから少しして、先程と同じ様に背中合わせの体勢に戻る。
そう、戻る筈だった。
「わっ…、な…!お、起きて…!」
「うるさい。耳元で叫ぶな」