第2章 交換条件【*】
自分のそんな様子に気付いたのか、伏し目がちに視線を逸らしたままそう言う。
確かに自分の身体にも大小様々な傷跡は数多く残っている。
だが、この傷跡は自分にとってはただの傷跡ではなく、大きな意味を持っている。
二人の弟を失い、今の自分にはもう心から守りたいと願う家族は兄者一人だけになってしまった。
この身体に残る傷跡は兄者や他の仲間達、一族を守った証。
自分はその証を心から誇りに思っている。
「…これらの傷は兄弟や仲間を守って出来たものだ。大切な者を守って出来た傷であり、ワシの誇りだ。仲間を守りたい気持ちはお前だって同じだろ。ならば、お前が女だろうとその傷を見て蔑む気などない」
「………」
肩から胸にかけて大きく残る傷跡に触れる。
特に嫌がる訳でもなく、ただその動きをじっと見つめている姿はどこか哀愁を感じられた。
***
昔、愛した人に同じ様な事を言われた。
状況も今と同じ。
初めてその人と身体を重ねた時だった。
勿論、状況は同じでも昔と今とでは全くと言って良い程違う。
ずっと共に戦いの中で生きて来て、それでも私を愛してくれた。
傷だらけの自分を誇りに思うって微笑みながらそう言ってくれた時は本当に嬉しかった。
自分が今まで生きて来た道は間違いじゃなかった。
そう思えただけで、今までの自分を受け入れてあげる事が出来た。
そして、その時に初めて誰かの前で涙を流した。