第17章 愛とは その四【*】
余裕なんてない。
ただ、触れてその存在を感じたい。
もう他人に名無しの面影を求める必要はないのだから。
「わっ、ちょ…っ」
傷跡に口付けを落としながら舌を這わせれば、刺激に敏感になっているのか肩に置かれている手に力が込められる。
身体には薄っすらと鳥肌が立っており、小さく息を吐く音が聞こえた。
そんな名無しの様子に構う事なく愛撫を続ければそれから少しして自分を呼ぶ声が聞こえ、熱っぽい瞳と視線が交わる。
さっきまで泣いていたせいか、目元は未だ薄っすらと赤いまま。
そして、初めて見るその表情に自然と視線が釘付けになる。
何度も自分の名前を呼び、こんな風に見つめられて何も思わない男なんていない。
自分の知っている名無しとは違うその姿に柄にもなく少し心臓が早くなる。
「扉間…っ」
今までとは違う甘さを含んだ瞳と声が自分の名前を呼び求められる。
今すぐにでも抱いてしまいたい気持ちともっとこのまま自分を求める名無しの姿を見ていたい気持ちが入り混じる。
たった一人の女にこんなにも余裕が無くなるなんて自分自身思いもしなかった。
自分を求める姿をもっと見ていたかったが、こんな姿を見て正常心で居られる程自分は出来た人間ではない。
ましてや、愛した女が自分を求めるのだ。
我慢出来る訳が無い。
早々に自身の纏っていた衣服を脱ぎ捨て名無しに覆い被さり唇を重ねる。
頬を優しく包む手が温かくて落ち付く。
足を持ち上げ自身を宛がい奥へと進めば、口付けの合間に無意識に熱い息が漏れ、全身を強烈な快楽が襲う。
自分と同じ様に息を吐く名無しの顔には痛みを伴うのか、瞳を閉じたまま薄っすらと眉間に皺が寄っており、少しだけ首に回されている手に力が込められる。
そんな名無しの様子に一度動きを止め、落ち付くのを待っていれば、それに気付く様に瞳が開けられ艶っぽい視線を向けられる。
「はぁ…っ、大丈夫だから、早く…」
名無しのその言葉とまるで今にも泣き出してしまいそうな顔に劣情が掻き立てられる。
そんな事を言われて我慢出来る筈もなく、そのままゆっくりと律動を開始させれば段々と滑りも良くなり、名無しの表情も少しずつ艶かしいものへと変わっていった。