第17章 愛とは その四【*】
「そうなると名無しの部屋はお前と同室としても少しばかりは生活用品も揃えんといかんな。後で二人で買い物にでも行けよ」
「あぁ…。後は適当にワシ等でどうにかする」
「それと、女中にはお前の部屋に近付かぬ様に申してあるから、思う存分楽しむと良い」
どんどん兄弟二人で進められる会話に唖然とし、ただ突っ立て二人の様子を見ている事しか出来なかった。
その後、話がまとまったのか肩に手を置かれたかと思えば、また瞬時に扉間の自室へと移動していた。
この術は飛雷神の術というものらしく、物体そのものを瞬時に移動させる術だという。
今までにも何度か見て体験もしたが、そうすぐには慣れるものではない。
そんな事をぼんやりと考えていたら急に浮遊感を感じ、気付けば目の前には天井と扉間の顔があった。
服の裾から侵入するひんやりと冷たい手に少し焦る。
「…え、ちょ…っと!」
「さっきも言っただろう。昨夜だけじゃ全然足りん。それに…、折角の兄者の好意だ。有難く受け取らせてもらう」
そうにやりと口角を上げながら笑う顔はやはり兄弟だなと思った。
そのまま言葉を遮る様に優しく口付けを落とされれば、結局上手く丸めこまれてしまう。
それが悔しくて両頬を掴み噛みつく様な口付けを返せば、少し驚いた表情の扉間と視線が合い、ついおかしくて笑ってしまった。
今まで知らなかった事がまた少し増えた。
冷めてそうに見えるけど、見た目以上に情熱的。
そして、自分が思っていた以上に大胆で、こっちが恥ずかしくなる。
それでも、知らなかった事がどんどん自分の中に増えて行くのを感じる度に顔が自然と緩くなる。
きっと、それはこれからももっと増える。
そう思うと人を愛する事の尊さが身に染みて分かる。
「愛してくれて、ありがとう」
この言葉を伝えよう。
いつか必ず訪れる別れに二度と後悔しない様。
そして、自分達の始まりを心から感謝出来る様に。