第17章 愛とは その四【*】
自分を包み込む体温が心地良くていつの間にか涙は治まっていた。
そして、今になって急に恥ずかしさが込み上げて来る。
こんな風に扉間の前で泣いた事もそうだし、今の体勢もそう。
でも、居心地は悪く無い。
耳に響く規則正しい心臓の音に落ち着く。
そのまま深く呼吸すれば、気持ちもさっきよりは随分と落ち着いた。
居なくなるのは勿論怖い。
それでも、こんな風に手を差し伸べ暗い底から引っ張って行ってくれる。
約束は曖昧で絶対ではない事は分かっている。
それでも、その言葉を信じたいと思う自分はやっぱり扉間の事が好きだ。
あの時から何も変わらない。
もう一度だけ、愛されて愛したいと思った。
扉間が真っ直ぐ自分を見てそう言ってくれた様に、自分も同じ様に伝えたかったから。
今の自分はきっと酷い顔をしているだろう。
それでも、初めて本当の自分を見せる事が出来たと思う。
先の事なんて誰にも分からない。
だが、今は「今」感じる事の出来る幸せを大切にしたい。
自分の目の前に居て、簡単に触れる事が出来るこの幸せに身を委ねたい。
「…私も、…好き」
たった一言。
その言葉を口にしてしまえば、今までずっと隠して来た想いは止まらない。
触れたい。触れて欲しい。
そのまま軽く触れるぐらいの口付けをしたら、少し驚いた表情をした後すぐに唇を塞がれた。
さっきから心臓の鼓動がうるさく鳴り響いている。
扉間とはこれ以上の事だってしているのに、前と今では全然違う。
真っ直ぐ自分だけを見て、自分だけを求めてくれる。
自分を愛してくれる。
あの時の様な寂しさはもう感じなかった。