第16章 愛とは その三
「…私は普通の女みたいに綺麗に着飾ったり、笑ったりなんかしないし、今まで多くの人間をこの手で殺して来た。それはこれからも消える事はない」
「………」
「それに…、私はお前がずっと嫌っていたうちは一族だぞ。…お前こそ、目を覚ましたらどうだ?」
そう言い終わった後の名無しの顔は、悲しそうな辛そうなそんな表情をしていた。
初めて名無しを抱いた時に「あの時に女を捨てた」と言った。
そして、自分は普通の女に戻れないし、戻ろうとも思わないとも言った事を覚えている。
イズナが死んだ「あの時」が名無しを変えた。
確かに名無しの言う通り、普通の女の様に着飾る事も無ければ笑う事もない。
それでも自分はその「名無し」を愛した。
それにそんな顔をされて黙って引き下がれる訳が無い。
「もう、お前がうちは一族の者だろうとも構わない。それにワシは普通の女なんかいらん。着飾らんでも笑わんでもワシはそのお前を愛した。それに、そんな泣きそうな顔で言っても無駄だ。ワシはお前自身の本心が聞きたい」
扉間に言われるまで、自分がどんな顔をしているかなんて気付いていなかった。
自分を愛してると言ってくれたその言葉は本当はとても嬉しかった。
だが、その嬉しさ以上にあの時の恐怖が心を占める。
愛する人を目の前で失う恐怖がずっと心の奥底に留まって消えない。
まるで解ける事のない鎖に縛られている様な感覚。
忍である以上、常に死とは隣り合わせでまたいつか自分の目の前から突然居なくなってしまうのではないかと思ったら怖くて仕方が無かった。