第16章 愛とは その三
「どうしてイズナがマダラに口止めをしたかなんて、考えなくても分かった…。そんな風に想われて復讐なんて出来る筈がなかった。それに…、いつの間にかしようとも思わなくなってた…」
初めて名無しの口からこんなにも話を聞いた。
最初は身体を強張らせていたが、話して行く内に少し落ち着いたのか今では自分にもたれ掛かる様に大人しく身体を預けていた。
話を聞いて、その当時の名無しが受けた悲しみに少しだけ触れた様な気がした。
愛する者を殺した相手が分かっているにも関わらず、復讐をする事を許されないだなんて、どれ程の精神的な負担だったのか想像も出来ない。
「恨んでいない」
そう名無しは言った。
この言葉が本心からの言葉だという事は分かっている。
それでも心はずっとざわついたままだった。
その「ざわつき」が何を意味するのか、もうとっくに気付いてる。
「まだ、愛しているのか?」
そうはっきりと言葉にする。
名無しが頷くのか首を振るのかは分からないが、それでもやはりその口から直接どう思っているのかを聞きたかった。
柄にもなく少し緊張している自分に笑いが込み上げる。
マダラに術を解かれ、その瞬間すぐに名無しの顔が頭に映像の様に現れた。
そして、その時に自分が今まで名無しに術を掛けられていた事に気付き同時に頭を抱えた。
思い出してしまえば、兄者やミトの言葉が全部意味のある物だったという事に今更ながらに気付かされた。
そして、名無しに守られたという事にも。
「…私はイズナに愛されて、愛する事を学んだ。大切なのは今も昔も変わらない。これからもきっとそう。でも…、今はそういう愛とは少し違う。どちらかと言えば、マダラに感じる様なそんな愛情に近い気がする」
自分の中で考え、まるで自分自身にも問い質しているかのように言葉を選んで話す名無しの声色は落ち着いていて、それが妙に心地良かった。
死者の想いに捕らわれた者はずっとそれを背負い生きて行くのだとばかり思っていた。
これからもずっとイズナを想い愛し生きて行くのかと思っていたから。
だから、名無しの言葉に驚いた。