第1章 序章
背後から何の前振りもなしに掛けてしまった言葉に、さんはびくりと肩を上下させ振り返る
『びっっっ…くりしたあ…!』
「ごめん…」
大きく真ん丸な茶色い瞳に怖気づき、咄嗟に俯いてしまう
そんな俺に慌てた様子で
『ううん!違うの、私がボーっとしてたからさ』
華が咲くように微笑む彼女に
「そう」とだけなんとか零してまた目を逸らす
『えっと…なんだっけ?』と覗き込まれ、余計に顔を逸らし
「ああ、ココア。良かったらと思って」
「飲みたかったんでしょ?手の動き的にこう…」と、身振り手振りで真似をする
すると何が受けたのか俺には分からないけど、再程よりも自然に
さんの口角がふわりと上がる
『…ふ、ふふ…っ
ありがとう、孤爪くん』
胸がむずむずする感じ
多分おれ今、顔真っ赤だ
彼女に釣られて上がろうとする口角を必死に抑え込む
『りんごジュース好き?』
「…うん」
『良かった!じゃあ交換しよ!』
あまりに無邪気に言うもんだから、力を入れた顔の筋肉も緩んでしまう
「ありがと」と小さく返す
なんとか会話ができていることに、少し誇らしく思う
けど次に続いた彼女の言葉に、返答の仕方を忘れてしまう
『ねえ、私さ、もっと仲良くなりたいんだけど、教室で話しかけたら迷惑?だったりする…?』
「え?」
だって交わるはずもなかったんだよ?
想像すらしなかったことが起きてるんだよ?
フリーズして、それで、気付いたら
言葉が先走っていた