第1章 序章
彼女と話すことなんて、目を合わせることなんて、自分にはあるはずもないと思っていた
特段、それを望んでもいなかった
彼女は誰から見ても魅力的で、才能に溢れて、その上それらをひけらかさない、甘んじない
世界が違い過ぎて、身の程知らずの願望すら
一ミリも湧かなかった
多分、俺じゃなくても同じ思いの奴の方が多いんじゃないかな
だけど彼女は容赦なく人を惹きつける
彼女の周りは人が絶えない
みんな、どうしたって、気付いたら彼女と関わりたく思ってしまうみたいで
彼女の周りは、いつも優しさで溢れていた
普段は気の強い女子も、意地の悪い男子だって、皆一様にただの良い人になっている
木兎さんとはまた違ったスター性だなと、遠目で眺めながら感心していた
他人事だった
関わる事なんてないと…そう、思っていた
あの昼休みが、訪れるまでは
その日も彼女の隣は取り合いだった
俺は虎たちとご飯を食べるから教室を出たけど
彼女は残って友達と食べることにしたみたいだった
虎と福永と学食を食べた後、自販機でココアを買った
なんとなくだった
教室に戻ろうと踵を返すと、向こうからさんがとてとてと歩いてくるのが見えた
大きなあくびをしながら自販機のココアを押そうとしているのを
なんとなしに振り返り見ていると、眠気にふらっとした彼女は誤ってりんごジュースを指の胎で押さえていた
『あ……』
可愛らしいミスに気付いたみたいで、声が漏れていた
露骨に落ち込む彼女の背中に
俺は気付いたら足を向け、話しかけていた
「ココア……要る…?」
交わるはずのなかった糸が、交わった