第1章 序章
去年
彼女が出たステージは、溢れんばかりの観客でいっぱいだった
軽音楽部の新入生に、歌の上手い子が入った
最初はその程度の噂だったと思う
開演前、興味本位で訪れた生徒がぱらぱらと体育館に点在している
俺は偶々、体育館の近くに居て…まあ、本当は、体育館裏が静かで、ひとりゆっくり出来るからいたんだけど
歌が始まってからは、この場所は静かとは程遠いとこになる
一曲目は、最近テレビでよく聴く歌を歌っていた
格子窓越しに中を覗けば、ステージには3人の女子生徒が堂々と、楽しそうに演奏している
激しく響くギターとドラムの音の中、透き通るような声が耳に届く
上手いとは噂になっていた
ただ、上手いんだと、漠然と聞き流していた
この人は違うんだと、すぐに分かった
俗っぽい言い方でしか表せないけど、彼女の歌声は”魅力的”なんだ
上手い、という言葉では足りない歌声を、俺は初めて目の当たりにした
いや、たぶん、絶対に
俺だけではなかったはず
同じ感動を味わった人は
二曲目が始まる頃には、体育館は人で溢れ、俺のいる体育館裏までぞろぞろと集まってきた
その日から、彼女を知らないものはいなくなっていた