第1章 序章
『まず第一に!!さっきからずっと気になってた呼び方!!!』
「え」
鬼気迫る表情で何を言い出すのかと思えば、予想だにしていなかったものだった
『私は研磨って呼ぶことになったのに、なんで私の事はさん!?距離感の釣り合い取れてなくない!?』
「なにそれ…」
堰を切ったように、さんは言葉を羅列する
『人間レベルってなに!?頭の良さなら研磨の方が遥かに上だけど!?なんかそうじゃないニュアンスだし!人に囲まれてるかとか、それは場所が違うだけ、メンバーが違うだけで!研磨だって囲まれてたじゃん!クロさんとかっ虎さんとかっ福永さんとか!?他の人もいっぱいさっ!』
「…っ」
圧倒される
困惑する
覚えたてのおれの仲間の名前を、指折り、精一杯、自分の気持ちを、考えを…正しく伝わるようにと丁寧に、乱雑にぶつけてくる
『私の事が嫌いなら、それなら仕方ないと頑張って納得するように努めるけどさ。そんな意味分かんない理由で避けられたり、一緒にいることに引け目とか感じられたりするなんてさ…そんなの絶対嫌だから!』
ばっと、おれの手を取り、握りしめる
その手が少し…震えていた
「…」
『ずっと、話したいと思ってたんだもん…うざがられる程くっついてやるんだから』
震える手が、少し汗ばんでいる
人と話すのが好きな君が、汗ばむ程、震える程、懸命に言葉を綴ってくれた
嬉しくて、嬉しくて、ぜったい今、情けない顔してる
「ありがとう、」
震える手を、包み込む
春先なのに、互いのそれは熱がこもっていた
『ッ!!!そ、その顔するの反則…!』
「え」
赤面する彼女にまた少し困惑する
その顔ってなに。反則って?
「……の顔の方が反則だよ」
『なっ!!』
耳まで朱が広がっていく
家までもう、すぐそこなのに
さっきまで隣に居る事すら引け目を感じていたのに
帰したくなくなるじゃん