第1章 序章
握りしめた手を見つめる
『………なんか、今日一日で研磨のイメージがコロコロと変わったわ』
「え、」
『良い意味!良い意味だから!』
『ただ、大人しい人なのかと…最初は思ってたから。けど、想像よりよく喋るし、バレーしてる姿は楽しそうだし……あと………』
「あと?」
『っやっぱり何にもない!』
「なんにもないって言い方じゃなかったじゃん」
逃げようとする手を離すまいと握りしめる
『何にも、ないよ』
目を逸らして言うに、おれはまた今度聞こうと思う
「おれも、変わったよ」
ただ、遠い存在だった君
無邪気で、暖かくて、才能に溢れて、誰からも好かれて…
「思ってたより、人間なんだなって」
『猿とでも思ってたってこと!?』
むきと憤るを、からかうように笑う
違う、そうじゃないよ
良い意味だってば
「ほら、家の人待ってるでしょ?早く家入りなよ」
『話逸らした!』
文句を垂れ流しながら、渋々家の扉を開けるの後姿に控え目に手を振る
扉の前でこちらを振り返り、『送ってくれてありがとう』と破顔する
釣られておれも、フと笑う
扉から漏れる光が段々細くなる
それが無くなる瞬間まで、じっと見つめる
人間――…人間だった
信仰心もないおれが、彼女を神かなんかと思ってた訳じゃない
ましてや猿だなんて思ったこともない
けど、”人間だった”と思った
それが一番、しっくりくる言葉だった
握りしめた手は小さかった
バレーを見る目は輝いていた
怒ると少し、怖かった
ステージの上に立つ、堂々とした君
教室の中心で、たくさんの人に囲まれる君
おれの隣で、笑う君
――彼女の実体に
初めて、触れられた