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【ハイキュー!!】透明な春

第1章 序章




名前を呼ばれただけなのに、人ってこんなにも満足出来るもんなんだね
おれなんかじゃ手の届かない存在に、少し触れられた気になって。つい笑みが零れる

普段の帰路とは異なる道をゆっくりと踏みしめて、ひと時ひと時を大切にする
だって、こんな幸せな時間。俺だけがずっと独占できる訳じゃないって事は、彼女を毎日見ていて身に染みていることだ

ふと隣へ視線を流せば、慣れた道を呑気に歩く彼女がいて
少しだけ、ムッとしてしまう


『次の交差点曲がったとこなの』

「…うん」


呑気にそう告げる彼女は、やっぱり警戒心が薄すぎると心配になってしまう


「…あんまりおれ以外の男に家教えちゃダメだよ」

『え、教えないよ?!』


ジトと見つめると『ホントだよ!』と弁明してくるが心配は晴れない


『そんな子ども扱いしなくても、研磨…以外に教えるつもりないもん』
「そういうの!!」
『ええええ』


わざとなのか、無意識なのか……後者な気がしてならないけど
彼女は男が勘違いするような言動をとりがちだ
おれみたいなのはそういう耐性がないんだから…


「はあ…」

遠くから眺めていた時には知り得なかった彼女を知って
嬉しいような、心配なような

『教室の研磨く…研磨は素じゃなかったんだね。安心した』

「…?」

俺と真逆の感想
安心、の真意が取れなくて首を傾げる


『話したり、人と関わるの自体嫌いなのかなって思って。迷惑じゃないかなって…』


胸をなでおろす彼女に、おれの方はふわふわとした気持ちになる


「…嫌いじゃ、ない。苦手だけど」

『良かった』

「さんを迷惑と思ったこと、一度もない。むしろ―…」

『むしろ…?』


首を傾げる彼女に口をくぐもらせ、言葉を続ける


「おれの方が、迷惑じゃない?」

『なんで!?』

「さんとおれじゃ、人間レベルが違うし…さんはおれと正反対で、人に囲まれてる。こんな風に、貴重な隣を独占していいはずないのに……」


おれ、なにこんな卑屈すぎること言ってんの…
引かれただろうな


『そんな風に思ってたの…?』


声音が低い
顔が見れない


「ごめ――…」
『ツッコみどころが!!!ありすぎる!!!』

「―え」


交差点の角
ここを曲がれば彼女の家

彼女は曲がらずに、こちらを振り返る

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