第2章 ローズ・マダー
「…俺…なにも聞いてねー…」
この一言が、どういう意味を持つのか。
ここにいるメンバーはわかってる。
一層、部屋の空気がピンと張り詰めた。
それ以降、何を話したか…
正直、よく覚えていない。
翔くんの…翔の怒りが、予想以上に大きかったから。
皆の前でこんなに取り乱すなんて…想像できなかった。
それほどの爆弾を。
僕は投下したんだ。
「どこ行くんだ」
低い、地を這うような声が聞こえて、やっと我に返る。
先程まで居た店の裏路地。
店の裏口に、タクシーが数台付けてある。
メンバーはそれぞれタクシーに乗り込むところだった。
「…え…?家に…」
「は?帰すわけねーだろ」
小さいけど、強い声。
強引に腕を掴まれた。
「今日は、家に来るんだ」
「…嫌…」
「嫌?拒否権あると思ってんの?」
「…今日は、嫌…明日…仕事…」
「明日なんもなかったよな?」
ぐっと詰まった。
そうだった。
この人、メンバーのスケジュールも全部頭に入ってるんだった。
下手な嘘は、一切通用しない。
「なにしてる。早く乗れ」
チーフの厳しい声が聞こえる。
今日は、大事な話があるからと同席してもらってた。
「櫻井。大野。どうするんだ。早くしろ」
「大野は俺の家に来るから」
「…大野?それでいいのか?」