第2章 ローズ・マダー
気がついたら、目の前には、カンバス。
手には、小さな油壺のついたままのパレットと絵筆。
「…え…?」
ゆっくりと後ろを振り返ると、翔が戸惑った表情で立っている。
「全部…知ってるって…なんのこと?」
目が、眩む
「…智…?なんか言ってくれよ…」
弱々しいあなたの声
それでも、僕の目は
あなたを見ることができない
「…俺が…悪かった…ごめん…」
どうして
「俺…智と離れてわかった…やっぱり、智じゃないと…」
どうして今言うの
「戻ってきて…智…」
どうして、あの時
その言葉をくれなかったの
絶望で、目の前のカンバスまで見えなくなる
背景に塗り込めた黒は、女を…
女の姿までも、飲み込もうとしていた。
「あ…あぁぁぁっ…」
パレットと絵筆を放り出すと、床に転がしてたパレットナイフを握った。
振り上げると、一直線に黒に塗り込められそうな女を切り裂いた。
その瞬間、背中に焼けるような痛みが走った。
「あ…?」
ぬるり、背筋を伝う液体の感覚…
それでも、カンバスの女は黒に取り込まれていく。
「いやだ…だめ…だめだ…」
また腕を振りあげて、その女を切り裂いた。
今度は胸に、痛みが走った。
「え…?」
右肩から左の脇腹まで…
白いシャツに、きれいに赤の線が入った。
パレットナイフを持っている手を見つめる。
切り裂いたのは、カンバスなのに…
そこについているのは、鮮血のような赤の絵の具。
「なに…これ…」
後ろを振り返ると…そこに居たのは…
血に染まったナイフを持つ、潤の姿だった
気がついたら、目の前には、カンバス。
手には、小さな油壺のついたままのパレットと絵筆。
「…え…?」
ゆっくりと後ろを振り返ると、翔が戸惑った表情で立っている。
「全部…知ってるって…なんのこと?」
なにが…本当で…
なにが…嘘で…
なにが…虚構で…
なにが…現実か
現実は虚構で、それはだまし絵
絵の中の女は…僕自身
僕を殺したのは、僕だったんだろうか
「…抱いて…翔…」
そしてここから、僕を
【END】