第2章 ローズ・マダー
フラフラと立ち上がると、僕の前まで来た。
「ごめん…ごめんね…智…」
何も信じられないって目で、僕に向かって呟く。
そのまま一回、目を閉じて。
レースカーテンを思い切り引き開けると、ベランダに踏み出していった。
手すりに手を掛けると、真っ逆さまに。
翔は落ちていった。
「智?」
後ろから聞こえた声に、ビクリと体に力が入った。
目の前には、カンバス。
手には、小さな油壺のついたままのパレットと絵筆。
ゆっくりと後ろを振り返ると、翔が戸惑った表情で立っている。
「全部…知ってるって…なんのこと?」
「え…?」
「え…って…智が、全部知ってるって言ったんじゃないか…なんのことだよ…」
少しむっとした表情で、カンバスのとなりにあるスツールに座った。
「なんだ…夢…?」
「え?」
「ううん…なんでもない…」
夢にしては…やけにリアルで…
ベランダから落ちていく翔の背中の白色が、脳に焼き付いてる
「…そうやっていつも…」
「え……?」
「俺に、推し量らせるよね…いや、俺だけじゃないか…」
「…翔…?」
少し手を伸ばして、カンバスの角に指を置いた。
「潤や…ニノ…雅紀は…無理か…」
クスクスと笑うと、少し傾いていたカンバスを真っ直ぐに直した。