第2章 ローズ・マダー
「まだ…引退する気でいる…?」
カツンと缶に爪を弾いてる音がする。
もう飲んでしまったらしい。
相変わらず…だな…
ビールの冷たさに手が冷えてきて、一気に煽ると缶が軽くなった。
「まだ飲むでしょ?」
キッチンに入って冷蔵庫を開ける。
ビールはいくらでもある。
そして、夜は…長い。
4本まとめて持ってリビングに戻ると、ガラステーブルに置いた。
「そこ、座ってよ」
向かいに置いてる、一人がけのソファに座る。
翔と向き合う形になった。
缶ビールをまた一本取ると、プルタブを上げた。
翔もそれを見て、また一本手に取った。
「景子さんと…話をしてきた」
予想…していたことだった。
この人は、自分の目的のためなら手段を選ばない。
あの人の名前を出せば、僕が拒否できないこともよく知ってる。
「気持ちは、変わらない」
そう言い捨てると、ビールを煽った。
今日は、どれだけ飲んでも酔えそうになかった。
「聞いて…智くん…」
「説得なんて無駄だ」
「聞けよ」
真っ直ぐに僕を見て。
怒り…ともまた違う…
強い目で、僕を見据えた。
「未練は…ないわけないよね…?」
潤と、同じことを聞く。