第2章 ローズ・マダー
「前は…アクリルじゃなかったっけ…?」
翔の方からも、プルタブを開ける音が聞こえて。
ゴクゴクと飲んでる音まで聞こえるほど、部屋の中は静かだった。
「…よく覚えてるね」
「そりゃ…」
「奈良さんに色々教わったから…だから油絵のほうが最近は多いよ」
「…そっか…」
部屋の隅のカンバスを僕も眺めた。
全然…今まで描いたこともないような絵。
赤紫色の服を着た、女の人の絵
その背後は…黒く塗りつぶした
その女の人が見下ろしているのは…楽園だった神殿の廃墟
「…どんな意味があるの…?」
「え?」
思わず、翔を見てしまった。
翔はカンバスをじっと見つめてる。
「あの絵…」
またぐびりとビールを飲んだ。
「智くんにとって、あの絵はどんな意味が…?」
翔の視線がこちらに向きそうだったから、目を逸らした。
「さあ…自分でも、よくわからない…」
最初から、なにを描こうかなんて決めて描いたことはない。
仕事なんかで頼まれて描くことはあるけども、大抵満足の行くものにはならないし。
ただ、ペン先から生まれる線を眺めていたら…なにかになっていたってことが多いだけで。
この絵も…
油絵の具をつけた筆先が動くまま描いただけで…
こんな絵になってしまった。