第2章 ローズ・マダー
送迎車は別々に翔と僕を運んで。
家の近くで降ろしてもらって、合流した。
ちょっと歩いた道のりは、無言で。
家に着いて、リビングに入っても無言だった。
「…座ったら…?」
「ああ…」
ゆっくりとした動作で、翔はリビングを進んだ。
紫色の革張りのソファに座る翔は、部屋の一点を見てる。
「絵…描いてるんだ…」
「ああ…うん…久しぶりにね…」
部屋の隅には、12号サイズのカンバスがある。
家では油絵は描かなかったんだけど…
もう最近は外に出るのも億劫で。
イーゼルと油絵の道具だけリビングに持ち込んで。
気が向いた時にだけ、色を載せてた。
「絵が…描けるようになったんだ…?」
少し、翔は嬉しそうに僕を見上げた。
「そうだね…」
「楽に…なったから?」
俺と別れて…メンバーに辞めるって言えたから…
楽になったんだろ?
翔の目はそう言ってるようだった。
「…楽になんて、なるはずないでしょ…」
そう切り捨てるように言うと、キッチンに入った。
冷蔵庫から、缶ビールを2つ取り出すと戻って。
ガラステーブルにそれを1本置いた。
もう一本は持ったまま、窓辺に立った。
プルタブを引いて、中身を煽ると喉に冷たい液体が流れ込んでいくのがわかった。