第7章 Coke+ポンパドール -Fseries-
N side
「あれぇ…?出ないな」
そのままスマホを眺めてたけど、掛け直してくる気配はない。
「どしたの?にーの」
「翔ちゃん、電話でないんだよね…準備は相葉さんがしてるはずなんだけど…」
「そうだよね、翔が準備するはずないもんね?」
助手席からこっちを覗き込んでくるカズヤの髪が顔に触る。
パーマをかけて外国人の男の子みたいにふわふわした栗色の頭になってたが、来年まで伸ばすとかで、今はそのパーマっ気も少し取れてきて、いい具合にもふもふした髪型になってる。
くすぐったいなあ…
「掛かってこないねえ」
「ふふ…」
もふっとカズヤの頭を撫でてやった。
「…ま、戻るか…」
「そだね。なんか、ごめんね…?」
「なに謝ってんだよ…しょうがないだろ?」
助手席に戻ると、シートベルトを着けた。
「だって…ママが急にだめになるなんて…」
「しょうがないよ。病気なんだもん」
ママさんを迎えに行ったんだが、その肝心のママさんは今、病院にいる。
いや、ママさんが病気なわけじゃなくて。
ママさんとこで働いてる従業員の男の娘が、急病で。
ああいう業界の人は、身よりもない人が多くて…
ママさんが親代わりに面倒みてる娘だったから、入院することになって準備やら手続きやらで、忘年会は結局来れなくなった。