第6章 シュガー・ビート
「いらっしゃい」
「どもども」
一昨年の夏、メンバーと一緒にお邪魔して以来の大野家。
相変わらずシンプルな玄関で、智くんは俺を迎え入れてくれた。
「急だったから、これどうぞ」
「え?いいのに…そんな…」
スイーツ部部長に献上する土産も忘れずに買ってきた。
「わ…ケーキ…?」
「そう。もう夕方だから種類なかったけど…」
「よかったのに。さすが翔ちゃんだなあ…」
ほっこり嬉しそうな顔をして。
受け取ったケーキの箱を大事そうに抱えた。
今日は智くんは仕事がなかったから、髪もセットしてなくて。
ぺたっとした髪で、まるでもう中学生みたいな幼さ。
Tシャツに、ハーフパンツが更に幼さに拍車をかけている。
スリッパを俺に出すと、部屋の中に歩いていった。
「おじゃましまーす」
「はい、どーぞ。洗面所そっちね」
「はいはい」
洗面所にはきれいなフカフカのハンドタオルと、うがい用の紙コップが用意してあった。
案外こういうとこ、気ぃ使いなんだな…
リビングに入ると、これまた一昨年来たときと変わりなく。
紫のソファに、部屋の奥にはハンギングチェア。
統一感のない室内は、それでもなんだか一つにまとまって見える。
やっぱり智くんのセンスの良さなんだろうなあ…
「どうぞ。座ってて。コーヒーでいい?」
「ああ…お願いします」
どすっとソファに座らせてもらったら、ちょっと智くんの匂いがした。