第6章 シュガー・ビート
少しだけ開いたドアの隙間から、空気が漏れ出してくるのを顔で感じた。
中は廊下よりは明るかった。
会場の照明なのか、光が個室の中に入っているようで。
もう少し開けると中が見えた。
会場を見下ろす大きなガラス窓の前。
白いソファの横に誰か立ってる。
ゴクリ、またつばを飲み込んだ。
逆光になってるけど
あのシルエット…
智くんだ
やばい
予感的中
真っ最中だ
急にカアっと体が熱くなった。
全身に汗が噴き出してくる。
なぜだか俺は慌てて、スマホのレンズ部分だけ中に差し込んで、その姿を捉えた。
息を殺してスマホに映る智くんのシルエットを見た。
少しゆらゆらしながら、立っている。
長袖のネルシャツを羽織っていて、左の肘を壁ドンみたいに窓ガラスにつけて、会場を見下ろしている。
右手は忙しなく、細かく動いてて。
それで体がゆらゆらしているように見えるんだ。
またゴクリとツバを飲み込んだ。
しばらく息を殺してスマホを見ていると、ごそっと智くんは体を動かした。
慌ててスマホと顔を少し引っ込めた。
見つかったか…?
でも少しすると、また物音が聞こえて。
そっとドアの中に顔を突っ込んで、また智くんを覗き見た。