第6章 シュガー・ビート
横浜アリーナには、「スイート・ボックス」席がある。
いわゆる、VIP席だ。
特別なお客さんをもてなすための席で、開放的な空間でゆったりとした椅子で楽しめる座席と、完全に来賓室みたいなソファセットのあるガラス張りの個室がある。
個室で寛いで、座席でアリーナの試合なりコンサートなりを眺めるってやつだ。
スイートのほうが部屋も座席も質のいいものになってる。
横浜アリーナが改装したときのニュースを見ていて、一回入ってみたいなとは思ってたんだよね。
こんなとこで、会場を見下ろしながら致すなんて…
ちょっと考えただけでも、ゾクゾクした。
スイート・ボックス席の入り口を探して多少手間取った。
何しろ目的が目的だから、たまにすれ違うスタッフさんに聞くわけにも行かなくて。
スイート・ボックス席専用の入口があった。
鍵が開いてなかったらアウトだなと思いながら、ドアに手をかけてみた。
「…え…?」
鍵、開いてた…
理由はわからないが、収録でここも使うから開けてもらってるのかな…
とりあえず足を踏み入れた。
ガランと、本格的に人が居ない。
人が居ないから明かりもついていない。
薄暗くぼんやりと明るい廊下は、ぽつぽつと非常灯のようなものが灯っているだけだ。
物音も、人の気配も全くしない。
「…いいじゃん…」
もしもここに智くんが居なくても…
俺、やっちゃえばよくね?
とりあえずスマホで、誰も居ない廊下を動画撮影し始めた。