第6章 シュガー・ビート
俺の顔をまじまじと見ると、御大はにっこり笑った。
「成長したな。翔!」
「はい!」
にこにこと機嫌よくパイプ椅子から立ち上がった。
「じゃあまた、詳しい話は…今度」
「あ、うん。おつかれ。智くん」
「おつかれ、翔ちゃん」
ひらっと手のひらで手刀を切ると、レッスン場を出ていった。
後に残ったコーヒーはまだ温かい。
「ふふふ…」
コーヒーを飲んで、ダウンジャケットを着る。
潤はまだスタッフリーダーさんたちと打ち合わせがあるようで、長引きそうだ。
「お先ね。潤」
「ああ、翔くんおつかれ」
ちらっと俺を見ると、ちょっとだけ不思議そうな顔をした。
「大野さん、なんで残ってたの?」
「ん?いや、別に。ちょっとな…」
「ふうん…?」
ちょっと智くんの様子が異様だったからか、気になってしまったようだ。
いけない。用心しないと。
「ツアー終わったら、釣り行くって話」
「ああ…今度一緒に行こうって言ってたもんね」
「んじゃ、あんま無理すんなよ」
「うん、おつかれ」
俺のマネくんがちょうど、送迎車の準備ができたと呼びに来てくれて、俺はまっすぐ家に帰った。
今日の智くんとの話を反芻しながら。