第5章 ブーゲンビリア-Fseries-
『はじめまして。櫻井翔です』
『ああ…』
ジュニアの中ですごく有名だという大野くんは。
椅子に座って鼻をほじっていた。
『…で?なに?』
『えっ…ああ…』
うっそりと顔を上げると、まだ鼻をほじっている。
一体、どんだけ鼻がかゆいんだろうと不思議に思った。
『先生が…大野くんの後ろで踊れっていうから…』
『ちぇっ…サンチェのバカ』
『うわぉ…』
すっごい…
あんな怖い先生を呼び捨てにしてる…
何だろこの人。
怖くないのかな。
『うわぉ…?』
怪訝な顔をして、大野くんは俺を見上げた。
『へ…?』
目が合うと、大野くんはにっこり笑って。
『おまえ、面白いなっ…』
そう言って立ち上がると、ぐしゃっと俺の頭を撫でてくれた。
米粒だった俺よりも身長が高くて…
すごく大きな背中が見えた
そのままトコトコと、稽古場の大きな鏡の前に立った。
まだ先生たちは稽古場には戻ってきていない。
音楽だけはうるさく流れていて、周りにいる子たちはワーワー騒いで遊んでる。
サラリと長い前髪をかきあげると、顎をしゃくって俺を呼んだ。
『じゃあ、基本のステップ教えてやる』
踊りだした瞬間
異世界が目の前に広がったかと思った
あの日から俺は───