第5章 ブーゲンビリア-Fseries-
この…笑顔が…
俺を救ってくれた…
「…ありがとう…智くん…」
こんな俺でも、生きてていいよって
智くんの笑顔に、全部許されてる気がして…
だから俺…今まで頑張ってこれたんだ
「な、なに礼なんか言ってるの!水臭いでしょ!俺たち夫婦なんだから!」
「うん…」
今まで生きてきて、初めて。
オメガで良かったって…
智くんの…俺だけの”雄”の子を産める
それは、俺にしかできないこと
何もかも包み込んで…時には自分が苦しくなっても人のことを包み込んでくれるこの人が…
俺の”運命の番(つがい)”で良かった…
「あ、翔…!ちょっと!」
大野家を御暇して、帰ろうと車に乗り込む間際。
母さんが慌てて追いかけてきた。
智くんは俺を見てこくんと頷くと、先に車に乗り込んだ。
「なに?どうしたの?」
「あなた、今もう抑制剤飲まなくていいのよね?」
「え…あ、うん…」
運命の相手に出会ったからか、あれからヒートは来ていなかった。
「ああ…よかった…母さん、それだけが心配で…」
ポケットからハンカチを取り出すと、目に押し当てた。
「あなたがどう思おうが、ヒートが来ちゃうとアルファの心、狂わすからね…」