第5章 ブーゲンビリア-Fseries-
こんな日が…
来るなんて、想像もしたことがなかった。
小さい頃に、性別検査でオメガだってわかってから、両親は俺のことをどこか腫れ物のように扱うようになって…
強力な抑制剤ができて、偏見もだんだん少なくなってきたけど、まだやっぱり堂々とオメガだと公表なんてできる世の中じゃなくて。
俺はオメガだと悟られないよう、必死だった。
今思えば…
必死に…隠してきたんだと思う。
思春期の頃に、初めてヒートが来て…
いつも仲良くしてる友達が、目の色変えて俺に覆いかぶさってきたあの日。
あの日から俺は…
何かから逃げて。
何かになろうとして。
もがいて、あがいて
息つく暇も、自分に禁じてた。
見たくないから
リアルな劣っている自分を。
認めたくなかったから。
「…翔ちゃん…」
智くんが俺の手をぎゅっと握った。
「泣かないで…翔ちゃん…」
困ったような…でもなんだか嬉しそうな声。
智くんはちょっと笑うと、ティッシュの箱を俺の前に置いてくれた。
「ごめん…なんか…胸が一杯になって…」
「そっか…」
ティッシュを一枚取ると、俺の顔をゴシゴシと拭いてくれた。
「い…痛い…」
「あ、ご、ごめん…相葉ちゃんのこと力加減馬鹿男って言えないなあ…俺…」
そっと俺のほっぺを拭くと、にっこり笑ってくれた。