第5章 ブーゲンビリア-Fseries-
「あ…ああ…大野くん。顔、上げて?」
父さんが、ちょっと焦った顔をして智くんの肩に手を置いた。
「こんなこというと、君は怒るかもしれんが……私達の世代は、やはり翔がオメガであるということは、どうしても大きな障害に感じるんだ。それを君は、全く問題にせず受け入れてくれている」
智くんが顔を上げて、不思議そうにしてる。
「だから、感謝こそすれ、挨拶だなんだ…そんな些末なことは気にならんほど…実は嬉しいんだ」
父さんは、少し押し黙った。
それからみるみる顔が赤くなっていく。
そんなこと…今まで一度も言われたことがなかったから、びっくりしたと同時に…見てるこっちまで恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。
ゴホっと咳をすると、父さんは俺を見た。
「一生、大野くんを離すなよ?」
「…わかってるよ…」
父さん…知ってるんだろ?
だって父さんは総務省の官僚だったんだから。
わかってるはずなんだ。
どうして特効薬ができても、婚姻法が変わらなかったか。
離れるわけ、ないんだよ。
だって俺たちは…
「翔ちゃんのお父さん…いや、お義父さん。翔ちゃんは、アルファの俺よりも立派で、すごい人です。人の何倍も努力するし、人よりもちょっと不器用だけど決してめげません」
まっすぐに、智くんは父さんを見てる。
眩しいほど、まっすぐに。
「そんな翔ちゃん…あ、翔くん…翔さんを、俺は尊敬しているし、オメガだからとか、そういうの…本当になんとも思ってませんから。うちの親も同じ考えです」