第5章 ブーゲンビリア-Fseries-
婚姻届は、仕事の調整が終わり次第、会見の前に出すことになってる。
だからそれを俺の家に持って帰って、金庫に入れておくことにした。
「翔ちゃんなんでこんな金庫持ってるの…?」
「いやあ…親父の書斎にあったから、大人になったら要るかなあと思って買ったんだけど…別にこれと言って役に立ったことはなかった」
「ふうん…じゃあ、初めて役に立つね?」
「へへ…」
二人で一緒に、封筒に入った婚姻届を持って。
金庫の下の引き出しにそっとしまった。
「あと、戸籍謄本とか…性別証明書とか…揃ったら、いつでも出せるね」
「うん…智くんはもうご両親にお願いしたの?」
「うん。翔ちゃんがお願いしてるって聞いて、すぐに俺もお願いしといた。だからもうすぐだよ」
「そっか…」
「……楽しみだね」
「え?書類が揃うのが?」
「ち、がーう!入籍!!」
智くんは顔を赤くして怒ってしまった。
「ご、ごめん…俺も大概鈍いから…」
「も?」
「も」
智くんは自分が鈍いっていうことだけは、強く自覚してるから、またむうっと黙ってしまった。
「…怒ったの?」
「怒ってないやい」
「人間って本当の事言われると怒るんだよ?知ってた?」
「……それ、前に翔ちゃんから聞いたから知ってる」