第2章 ローズ・マダー
何も答えられなかった。
ぼんやりと、ガラステーブルに載せた自分の指先を見てた。
ああ…また日焼けした。
手のひらと甲の境目が、やたらくっきりとして。
表と裏で違う皮がくっついてるみたいだった。
まるで、今の僕
芸能人の僕と、そうじゃない僕
でも、どちらが表でどちらが裏なんだか…
誰にもわからないんだ
「残らなくてもいい」
やたら、はっきりとした声が出た。
「今、この状態のまま居るなら、消えてしまうから」
「…消える…?」
聞こえてきた声に、びくりとした。
声が、松潤から聞こえて来たと認識するのに時間がかかった。
ひとりで部屋に居るつもりになってた。
「ああ…松潤…居たんだ…」
「え…?何、言ってるの…?」
思考の淵に、どっぷり沈んでたらしい。
松潤が居たことなんて、すっかり忘れてた。
「なんでもない」
そう言って立ち上がろうとしたら、腕を引っ張られた。
「消えるってどういうこと」
「だからなんでもない」
「何が苦しいの」
「言ったろ?芸能人で居ることが、だよ」
「違うでしょ」
「違わない」
腕を振りほどこうとしたけど、力が強くて。
「…死ぬの…?」
ぽつりと呟いた声は震えてて…
くっきりとした目は、潤んでた。