第2章 ローズ・マダー
「俺…」
また、コーヒーをずずっと啜った。
「…あなたの気持ちはわかってるつもりだよ」
「…そう…」
「ただね、あなたが居ないと…嵐は解散だね」
「…そうだね…」
「今まで積み上げてきた実績…キャリア…、信頼関係…」
コトっと音を立てて、テーブルにマグカップを置いた。
「俺たちを捨てるわけじゃないけど、スタッフさんたちや今まで関わってくれた方々は、捨てるんだ?」
「…そうだね」
松潤の顔を見ないまま、あの日したであろう会話を繰り返す。
…翔に気を取られてたから、よく覚えてないけど…
「…今までの大野智を作ったもの、全て…捨てるんだ?」
「そうだよ。捨てるよ」
それほど…
「僕」が霧散してる。
散り散りになって、どこに僕の本体があるのかも…
自分自身でわからなくなってる。
常に夢の中にいるような。
常に泥の中を歩いているような。
現実感が、なにもない
映画やドラマの中に、生きてるみたいな感覚。
「そこに…未練はないの…?」
「え…?」
「大野智として、20年以上積み上げてきたものには…未練はないの?」
「…ない…」
「じゃあ、聞かせて」
「…なんだよ…」
一体、嵐を捨ててあなたに何が残るの?