第5章 ブーゲンビリア-Fseries-
「な、なんでもないから…騒がないで…?」
「でもっ痛い?痛いのっ!?」
「違う…多分、胎動」
「タイドー?」
「ダイドーじゃないよ?」
「う…」
「タイトーでもないからね?」
「い、言ってないじゃん!」
すっごく心配そうな顔をして、俺の腹に手を伸ばしてきた。
そっと触れると、さすさすしてくれる。
「赤ちゃん、動いたの?」
「そう。それを胎動っていうの」
お腹を撫でながら、智くんはこくんと頷いた。
「ごめんね…お腹目立たないから、つい…」
「ううん…しょうがないよ。俺、男だし」
オメガの男は妊娠しても、そんなに腹は目立たない。
だから仕事もこうやって続けられるわけで。
「でも…やっぱ、休んでほしいな…俺…」
「智くん…」
俺たちの結婚と出産を事務所は許す代わりに、調整がつくまで今まで通り仕事を続けることを条件に出してきた。
要求されたのは、それだけだった。
デキ婚なのに、うちの事務所にしてはえらく寛大な処置でびっくりした。
やっぱり、いくら智くんが張り切ってるとはいえ、俺が産休に入ってしまったら、穴を開ける仕事が多い。
迷惑を掛けないように、今、頑張って先の仕事の調整をしている最中なんだけどね。
もちろん、無理なときは休んでもいいんだけど。
「大丈夫だよ。無理なときはちゃんと言うから」
「ホントだね?無理しないでね。絶対」