第5章 ブーゲンビリア-Fseries-
なんで抑制剤を飲んでいたのに智くんが反応したのか
それは多分…
レギュラー番組の収録日。
収録の合間の飯休憩中、楽屋で俺と智くんは並んでソファに座っていた。
智くんはテーブルに置いてある書類に、書き込みをしている。
「はいっ!翔ちゃん!」
「あ、うん…」
智くんがペンと紙を渡してきた。
「早くサインして?保証人、あいつらになって貰うから!」
「うん。わかったよ」
婚姻届…
同性でもアルファとオメガの証明書を出せば、婚姻できる。
法律は抑制剤ができても変えられることはなかった。
それは極稀に、俺たちみたいなカップルが誕生するからであって。
完全にヒート(発情期)を制御できる薬が開発されてから、同性のアルファとオメガの婚姻は激減した。でも、今もないわけじゃない。
その理由は、どうしても抑制剤が完全に効かない”特別なケース”があるから。
「…俺、字ぃ汚っ…」
「そんなの前からでしょ。はい、書いた書いた…」
智くんは、浮かれすぎてなんか失礼だ。
「…知ってるもん…」
「あっ…翔ちゃん?ごめんね?怒った?」
「…怒ってないですう」
「それ怒ってるときの口調じゃん!ごめんねっ?字、キレイ!」
「嘘つけ!」
腹に力を入れて怒鳴った瞬間、腹の中がぐんにゃりと動いた。
「っ…う…」
「ど!どうした!?」
腹を抑えていると、智くんが慌てだした。