第2章 ローズ・マダー
ケーキを食べ終わって、コーヒーのお代わりを持ってきたら、松潤が姿勢を正した。
ああ…来るな。
あの話が。
そう思って、わざと大きめの動作で視線を逸した。
「…ちょっと、話そうよ。大野さん…」
リーダーって呼ばないときは…プライベートモードだ。
嵐の演出担当としてではなく…
長年の友人である、松本潤として話がしたい。
そういうことだろう。
「…なにを…?」
その気遣いはわかるけど…
それでも松潤の顔を見ることができなかった。
小さなため息が聞こえた。
「…引退のこと。わかってるでしょ?」
「わかってるけど…嫌」
「……本当に話すのが嫌なら、俺のこと今日部屋に入れてないでしょ?」
やけに確信を持った言い方で。
「少しは…話してくれる気があるってことでしょ?」
そう言うと、マグカップを持ってコーヒーを啜った。
「…んまいね…」
以前、番組で淹れ方を教わってから、ハマった時期があって。
忙しいから、最近は適当だったけど。
今日は、松潤が来るって言うから、久しぶりに良い豆を買ってきた。
「歓迎されてるってことで、いいのかな?」
いたずらっぽく笑った松潤は、少年みたいだった。