第2章 ローズ・マダー
気がついたら、風呂に入ってた。
翔が僕のこと後ろから抱えて、浴槽に浸かってた。
「…翔…」
「ん…?」
「僕、絶対撤回しないから」
「…え…?」
「辞めるから」
身体に衝撃が来て、僕はお湯の中に沈んだ。
翔が浮き上がろうとする僕の身体を抑え込んで来る。
ごぼっと口から空気の塊が出て、水を飲み込んでしまう。
苦しくてもがいても、翔はどいてくれない。
意識が飛びそうになった瞬間、引き上げられて。
急に入ってきた空気に咽て水を吐き出してる僕を、じっと見てる。
胃の中に入ったものまで全部出しても、まだ吐き気は収まらなかった。
「智…」
優しい声を出して、僕を抱きしめる。
「どこにもいかないで…智…」
いいや…
僕は…
飛び立つんだ
「僕は…行くよ、翔」
はっきりと、意思を示した。
いままで、言えなかった。
力の入らない腕をなんとか動かして、浴槽から身体を放り出した。
浴室の床に不格好に横たわり、息を整える。
「僕を…自由にして…翔…」
「なにを…今までだって自由だったじゃないか」
浴槽から乱暴に出てくると、シャワーヘッドを取ってお湯を出した。
水音が、ただ響く。