第11章 焦がれ(本誌ネタバレ注意⚠️)
手は届かない。
手を伸ばせば、触れられるところに居るのに、この手は伸ばしてはいけない。
俺は、教師だ。
公平で、厳粛でなければならない。
1人の生徒を特別扱いしてはならない。
この気持ちを圧し殺して、今日も、素知らぬ態度で存在してる。
「カルエゴ先生!」
「……何だ。」
ああ、お前のその眩しい笑顔が他の奴に向けられるのは、正直、我慢ならない。
お前の足元にかしづき、翼の根元を捧げれば、俺だけをみてくれるのか?
俺だけのものになって、俺のそばに……
……何を馬鹿な。
これは、抱いてはならない感情だ。
心の闇に、何重もの鍵をかけて、何重もの封印を施して、深く深く沈めて仕舞わなくては。
「先生?」
「……だから、何だ。」
「もう。話を聞いてないのは、先生ですよ?
私のピアノは合格ですか?」
「……そうだな。」
「入間みたいに雰囲気出るようになったならよかった。」
問題児クラスが選出した曲「リリス・カーペット」
今の俺に何と相応しいことか。
「……特別にもう一度弾いてやる。」
「えっ、本当ですか?」
椅子に腰掛け、ミユキの隣で、鍵盤に指を走らせる。
滑らかに、叩き出すメロディーは、
リリスに恋をする男の様を見せる。
顔のないリリスが、ミユキになって、俺は、その足元にひれ伏す。
〔どうか、俺のただ1人の存在になってくれ。〕
そう、お前に言えたなら。
「……!?どうした?」
「えっ、あっ!……その、」
曲を弾き終われば、顔を真っ赤にして涙を流しているミユキがいて。
「すごく、感動して、ドキドキしました。
まるで、私が愛を語られたような、そんな気持ちになれました。先生までとはいかなくても、足元くらいには及ぶように弾けるようになります。」
「……そうか。」
感情移入しすぎた。
……気がつかれなくて良かったと思う反面、
鈍いミユキに腹立たしく思う自分に、嫌気がさす。
「…今日は、ここまでにしよう。」
「はい。…バラム先生の所によりますか?」
「そうだな。今日は、稽古はなかったはずだ。」
「じゃあ、先に行ってますね。」
そう。
この感情は、悟られてはいけない。
今は、まだ。