第10章 穏やかな一時
とある昼下がり。
受け持ちの授業なども終わり、急ぎの業務なども終わらせて、後は、急ぎではないが細々した雑務を残すだけ。
と、その前に、
「疲れた。」
カルエゴは、疲弊していた。
肉体的にも、精神的にも。
兎に角、休みたかった。
静かに。
そうだ、シチロウの所に行こう。
そう、思い立って、誰かに呼び止められる前にと、早歩きで廊下を闊歩した。
その物凄い形相に、誰も声をかけられなかったとはカルエゴは知らない。
たどり着いたシチロウの研究室。
ノックなども特にすることなく、いきなりドアを開けた。
目当ての人物は居らず、替わりに、よく見知った生徒が1人、目を大きく見開いて此方を見ていた。
「…何故ここにいる?」
「……先生こそ。」
シチロウに用があったと言えば、
「シチロウ先生、さっきまで居たんですけど、何かを思い立ったらしくて、出てきました。その内、帰ってくると思いますけど。」
部屋の主の不在を教えてくれた。
「…何をしている?」
「あ、魔茶、淹れますね?」
話ながら、ごそごそと作業台で何かをしているミユキ。
魔茶を用意しているらしい。
担当のクラスの生徒だが、最近は、同級生の自分よりも、この部屋に出入りしてる。
まあ、理事長公認のアドバイザーならしょうがないのか。
若干のモヤモヤ感を覚えるが、振り払った。
ミユキの淹れた魔茶を、特別製の茶菓子と共にいただく。
「はぁ、いいな。」
「えっ?何か言いました?」
「………何でもない。」
一息ついたら、和んで、緩んだ台詞が出てしまった。
だが、この、雰囲気はいいな。
2人の間に会話は無かった。
それでも、何となく穏やかな時間が流れている。
ふと、静かになったから、カルエゴ先生の方に目を向けると、ああ、寝入る先生がいて。
コクリコクリと船を漕いでいた。
そっと、先生に近づく。
起きない。
今度は先生の身体をソファーにゆっくりと倒してみる。
そんなことされてるのに起きない先生。
よっぽど疲れているようだ。
毛布を指パッチンで出して、先生にかけてあげる。
身じろいだから、一瞬、やばっ、とドキッとしたが、杞憂だった。
寝てるときは、少し眉間のシワが薄くなる。