第5章 化粧(カルエゴ)
カルエゴside
途中、何処に向かっていたのかと聞けば、化粧を落とすためにパウダールームに向かっていたのだと言うから、執務室に必要なものを用意してやることにした。
執務室について、テーブルに湯を張った桶とタオルを用意しやる。
他に必要なものを聞くが、大丈夫だと言われる。
鞄の中からポーチを取り出して、カチャカチャと何やら出し入れしている。
見ただけでは男の俺ではわからない何やらの道具。
桶の前で、少し躊躇っているような風だった。
もしかしたら、もう、化粧はしないかもしれない。
ふと、そう思ったら、一度、きちんと見ておこうと思い立った。
「……まて、」
制止して、マジマジとミユキの顔を凝視する。
少し、崩れた化粧。
それでも、化粧をした女の顔は、何かを呼び起こそうとする感覚に囚われる。
もたげかける欲に蓋をしようとしたが、唇をみたら、それは意識の外に吹き飛んで、気がつけば、
「ふん、貴様にこの口紅は似合わん。」
そう言って、唇を奪っていた。
執拗に女の唇を貪る。
赤い口紅をなめとり、跡形も無くす。
……ついでに、柔らかい唇を堪能した。
「…はあ、…これでいい。つけるのであれば、オレンジ系にしろ。その方が、貴様によく似合う。」
赤色が落ちたのを確認すると、ポケットから出した包装された口紅を取りだし、包装を取り払うと、唾液で濡れた唇にオレンジの口紅を塗ってやって、
それを手渡した。
気が済んだので、暫く放置したが、一行に動かないので、一言、声をかける。
「……いつまで呆けているのだ。授業に遅れるぞ。」
「は、はい。」
すっかり化粧を落とし、何時ものミユキに戻り、俺のやった口紅を着けて出ていった。
ガラスに映った自分の口元が赤くなっていたのをみて、指で拭き取った。
そう言えば、と服の口紅を魔術で落とす。
椅子に深く座り、こんなにもあからさまなアピールをしているのに、なかなか進展しない2人の仲について、頭を痛める。
1度、はっきりと答えを聞いてみようか?
嫌だといっても、逃しはしないが。
口紅を男性から女性に贈るのは、「その唇を奪いたい」と言う意味があるのだとか。
意味を知らずにミユキに口紅を贈ったカルエゴ先生。
鈍いミユキは気がついたかしら?
彼の気持ちは、もう、明白ですよ?