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魔入間短編

第5章 化粧(カルエゴ)



カルエゴside

柄にもなく、口紅を買ってしまった。

シチロウから最近のミユキの頑張りを聞かされて、何かをしてやりたくなった。
だが、いざ、何がいいかと考えれば、何も思い浮かばず。
ふと、街に出たときに、目についた小間物屋に入れば、場に不釣り合いな俺に、店員が新作だと言う化粧品を勧めてきた。
今、若い女性に人気のブランドなのだと言う。
女性に贈り物なら、うてつけだとなかば強引に押し付けられて、買わされた。…感は否めず。
それでも、オレンジ色が似合うと思ったから、色だけは、自分の意思で選んだ。

さて、どのタイミングで渡そうかと考えていたら、何やら、騒々しい集団をみかけ、その中心にミユキの姿。
いつもと違う装い。
化粧をしているのだと判った。
印象がガラッと変わった。
まるで、入間の悪周期の様な。
普段がおっとり小動物なら、化粧をしたあいつはさしずめ、雌ヒョウか。
色気か何かに引き付けられて、周りの奴等は集まってきているようだった。
チッ、何ともタイミングの悪い。
遠巻きにその様子をみていた。


1日、観察していたが、常に誰彼いて、一人になるタイミングもなければ、近ずく事も出来そうに無かった。

いっその事、渡さない、と言うことも有りではなかろうかとさえ思う様になり、ポケットの中の口紅は執務室の引き出しの奥に仕舞うことにした。
とんだ、道化だと思う。
他かだか、10cm前後の小さな筒に四苦八苦させられるとは。

渡すものの事を頭の隅に追いやり、次の授業の事を考えながら歩いていると、角を曲がったところで誰かとぶつかった。
相手を確認することもなく、睨み付ければ、
それは、先程まで頭を悩ませていた存在で。

「あ痛い」
「……貴様、」

後ろにくっついていた者共は、青ざめてサーといなくなった。
何とも薄情な事だ。

「あ、あの、重ね重ね申し訳ありません。」
「何だ。」

申し訳なさげに呼ばれるから、何かと思えば。
唇型の真っ赤なシミが腹部辺りについていた。
睨んだつもりはないが、怒っていると思ったのか、
いつぞやの入間の様に、ごめんなさいを連呼していた。

しかし、これはチャンスだった。
今なら、ポケット中の口紅を渡せる。
渡している所を誰かに見られるのは不味いので、執務室に連れていくことにした。


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