第5章 化粧(カルエゴ)
「あっ、……重ね重ね、申し訳ありません。」
「何がだ?」
カルエゴ先生の服に、ベットリと真っ赤な口紅がついていた。
「!!!???」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
大層お怒りのカルエゴ先生に連行されまして、ついたのは執務室。
お湯の張った桶とタオルを用意してもらった。
「その不快な化粧を落とせ。」
「……はい。」
落とせる機会をいただいたのはよかったが、何か一言欲しかったのも事実で。
何て、卑しいのだろう。
朝、脳裏にカルエゴ先生の驚く顔が無かったと言ったら嘘。
驚かなくても、何か反応が欲しかった。
……否定的でない反応。
でも、もう、化粧はしない。
こんな煩わしい状態になるのなら、二度としない。
いざ、化粧を落とそうとタオルをお湯に浸す。
「……まて、」
制止が入って、一旦停止すると、
マジマジと顔を凝視するカルエゴ先生。
近い、近いです。
「ふん。この口紅は貴様に遇わん。」
そう言って、唇を奪われた。
「!?」
突然の出来事と酸欠で、頭はパニックだ。
「…はぁ、…これでいい。つけるのであれば、オレンジ系にしろ。その方が、貴様の肌に映える。」
カルエゴ先生は赤い口紅を全てなめ尽くすと、オレンジ色の口紅をどこからともなく取り出して、塗ってくれた。
それを手渡される。
「……いつまで呆けているのだ。授業に遅れるぞ。」
「は、はい。」
すっかり化粧を落とし、素っぴんに戻った私を追い回す悪魔はもう、いなかった。
「あらぁ?もう落としちゃったの?」
「うん。落ち着かなくて。」
「すげぇ、キレイだったのに。でも、何時ものミユキっちも可愛いぜ!」
「そうです。ミユキさんはいつも、尊い。」
仲間達は素の私を受け入れてくれる。
背伸びしなくても、いいのかな。
……でも、あの人の前でだけは、少し、「女の子」でいたいな。
「…でも、その口紅は良く似合ってるよ。」
「!!」
口紅だけはつけ直していた。
……カルエゴ先生がくれたやつを。
「えっ、どうしたの?具合悪くなっちゃった?」
「な、何でもない。」
カルエゴ先生を意識したら、あのキスまで思い出してしまって、赤面した私は、入間に心配されました。