第10章 住職はやうつつになって
草庵に急いで戻った銀邇を迎えたのは、どうにか正気を取り戻した、あの怯懦していた少女。
「その子を此方へ! 診せてください!」
銀邇は言われるがままに少女についていき、草庵の一室に入る。3畳ほどの部屋に布団が敷かれただけの部屋である。
銀邇が陽露華を布団に寝かせるや否や、少女は陽露華の着物を剥いだ。
銀邇は思わず目を逸らし、壁際に寄る。
少女は銀邇を気にした様子もなく、陽露華の臍の下にある印を見つける。印は陽露華の肌と同系色で、僅かながらも発光していなかったら、見つけられなかっただろう。
「お兄さん、この印を——って何してるんですか」
少女は銀邇を呼んだが、彼が額を壁に擦り付けている姿を見て、思わず角のある口調で問うた。
銀邇は言葉にならない声を発し、少女の逆鱗に触れた。
「恥ずかしがってる場合ですか! 彼女死にますよ!」
その声に銀邇は我に返った。居住まいを正し、少女に短く謝る。
少女は許すとも言わずに説明する。
「この印は、瑞雲が付けた、自分の所有するものであると主張するものです。付ける方法は子宮内への射精、男の場合は尻です。外す方法は、中のものを扱き出せば、自ずと印は消えます」
少女の遠慮容赦のない言葉に、銀邇は面食らった。
「お兄さん、女性経験は?」
「……ある」
「なら話は早いです。——私は他の子供たちを診ますので、失礼します」
少女は伝えることだけ伝えて、さっさと部屋を出て行ってしまった。
襖が閉められた瞬間、部屋は静まり返り、草庵内の子供達の声でさえ遠くに聞こえる。
銀邇は横たわる少女を見下ろした。頬の高揚は未だ取れず、浅い呼吸で苦しそうに呻き喘いでいる。