第9章 大方は真しくあひしらひて、偏に信ぜず、また疑い嘲るべからず
公任は玄関扉を4回叩く。
「ごめんください! 公任と銀邇です。瑞雲さん、ただいま戻りました!」
返事はない。それどころか、子供の話し声も聞こえない。
公任は扉を引き、鍵がかかっていることを確認した。
公任から数歩、銀邇は離れた。
引き戸から数歩、公任は離れ、2枚の引き戸に体当たりをかまして強行突破。
これだけ物音を立てれば、自ずと気付かれる。
バタバタと騒がしい足音を立てて、玄関に集まってきたのは少女たち。皆それぞれ武器になるものを持っていた。
公任は柔和な笑みを浮かべた。
「思ってたより盛大なお出迎えで、お兄さん嬉しいなあ。でもね、君らに用事は無いから……ちょっとおねんねしようか?」
公任の両眼が青白く発光する。
その目に睨まれた少女たちは、武器を手放し、その場に折り重なるように倒れる。幸い、刃物を持っている子はいなかったので、血は流れなかった。
「よし、行こう」
「女子(おなご)を跨ぐのは申し訳ねえが、仕方ねえか」
公任と銀邇は少女らを踏まぬように、間をぬって草庵に入る。土足で。
中は簡素だが、草庵にしては広い造りだった。
公任と銀邇は各々で襖や障子を一つひとつ引き開け、瑞雲及び陽露華他子供たちを探す。
この間、誰にも合わなかった。それどころか、めぼしいものは何一つ見つからず。
縁側で2人は鉢合わせ、残り一つ、探していない部屋の障子を見る。
公任が引き開けると、怯懦した様子の少女がへたり込んでいた。
公任と銀邇を見るとさらに顔を歪めて、身を引く。
陽露華より2、3歳年下だろうが、顔に幼さが残りつつも体は女のそれである。
少女はぶつぶつと何か言いながら畳を引っ掻く。とても話せるような状態ではない。
公任はその場に片足を付いて優しく声をかけてみるが、少女は聞く耳を持たず、ぶつぶつと何か言いながら畳を一心不乱に引っ掻く。そして、だんだん声は大きくなり、2人の耳にもはっきり聞こえてきた。
「すみません、すみません、お許しください。闖入者を追い出せなかったこと、猛省しております。どうかどうか息子には手を出さないでください。あの子は関係ありません。どうかお許しください、瑞雲さま」